鋼構造ジャーナル2003年11月17日号掲載「暖流」より

 清流の代表的河川として四万十川や静岡の柿田川がテレビなどで良く紹介される。かつての古座川はまさしく清流であった。上流は岩肌が露出した渓流で,随所にある深淵は群青色を呈していた。初めて水中メガネで見たときの光景は今も私の脳裏に焼き付いている。十数年前に私の知人が目にした週刊誌の旅行記事に,古座川上流の景観を「まだある日本の秘境」なるタイトルで紹介されていたそうである。確かに,上流に至るまで随所に奇岩やそそり立つ岩山があり,一枚岩の景勝など秘境と呼ぶに相応しいところである。
 昭和30年代はたいした娯楽もなく,夏休みは川で魚捕りが唯一の楽しみであった。もっぱら鮎かウナギである。川に入ってまず鮎をモリで突く,その鮎を笹に刺し,背丈ほどの深さまで潜って岩穴や川底の石の隙間でちらつかせるとウナギが顔を出す。そのときもう片方に持った笹の先にはタコ糸で結んだ少し大きめの針を仕掛けておく。この笹をウナギの首の下にそっと差し入れて引っかけて捕る。ただし,失敗すると2度と出て来ないからその場所は翌日にトライする。
 捕ったウナギは自分で料理した。蒲焼きのタレは醤油に砂糖を加えた程度のもので,蒸したりせずに串も刺さずに適当な大きさに切って網に乗せて焼く,何度もタレに付けては焼く。ウナギからしたたり落ちる脂がタレにもたっぷり混ざり合う。焼くにつれて形は徐々に小さくなる。歯応えのある天然ウナギのあの味は今でも忘れられない。
 ダム完成後の古座川はかなり濁った。父も和歌山での勤務を終えて千葉に戻り,それからは古座川町に行く機会もなくなった。あれから40年,清流は戻ったのだろうか。防災目的のダムであるが故,発電能力は僅か7,000kwhである。水力発電は本当に環境にやさしいクリーンなエネルギーなのだろうか。

(本文は鋼構造ジャーナルさんの転載許可を得て掲載しています。)

(→本編へもどる)

           

(2007年2月6日付け)